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小林よしのり
2016.4.20 15:35日々の出来事

絵の未完の大器


のむらしんぼ氏をゲストに迎えた生放送が好評だった

ようだ。

のむら氏は『東大一直線』の絵の下手さを見て、

これなら自分もやれると希望を持ったと言う。

当時そう考えていた漫画家志望者は多かったのだ。

ところがそう考えたほとんどの志望者はプロになれ

なかった。

のむら氏は数少ない成功者の一人だったのである。

 

今は借金を返すために再起を賭ける漫画家となったが、

そもそも漫画家なんて還暦になって描き続けている者

なんてほとんどいない。

ギャグ漫画家は特に潰れるのが早くて、もって4

くらいで精神を病んで去っていく。

 

絵が下手な『東大一直線』だったが、特に知識人に

ウケていたのは他の漫画とは一線を画していた。

これを読んで東大進学を目指したという者も多く、

実際、東大に合格してしまった者も多かった。

子供にウケていたのだが、知識人にもウケるという

のが、わしの漫画の特徴だった。

 

はっきり言えば、風刺や批評性が強烈だったのだ。

それは『おぼっちゃまくん』にも、『ゴーマニズム宣言』

にも受け継がれていて、作家性は変わっていない。

デビュー作でもう決まっていたのだ。

 

漫画で長く食っていける作家は10万人に一人と

映画「バクマン。」で言っていた。そんなもんだろう。

いっぱいデビューして、いっぱい終わっていく。

 

最初から絵が上手い作家は、これ以上はないという

レベルにまで絵が完成し、それを長年維持するのは

難しく、やがて絵が乱れてきて、絵から色気が消え、

スカスカになって人気がなくなることも多い。

 

わしのように最初が下手だったら、あとは努力の持久力

だけで、上手くなり続けることができる。

絵に関しては永遠に未完の大器でいられる。

これはこれで得かもしれない。

 

そして、のむら氏によると、弘兼憲史はある日突然、

絵が上手くなったと言っていたらしいから、わしも

ある日突然、ぎょぎょっとするほど上手くなるかも

しれない。

今後はわしのことを「絵の未完の大器」と呼んでくれ。

小林よしのり

昭和28年福岡生まれ。漫画家。大学在学中にギャグ漫画『東大一直線』でデビュー。以降、『東大快進撃』『おぼっちゃまくん』などの代表作を発表。平成4年、世界初の思想漫画『ゴーマニズム宣言』を連載開始。『ゴーマニズム宣言』のスペシャル版として『差別論』『戦争論』『台湾論』『沖縄論』『天皇論』などを発表し論争を巻き起こす。
近刊に、『卑怯者の島』『民主主義という病い』『明治日本を作った男たち』『新・堕落論』など。
新しい試みとしてニコニコ動画にて、ブロマガ『小林よしのりライジング』を週1回配信している。
また平成29年から「FLASH」(光文社)にて新連載『よしりん辻説法』、平成30年からは再び「SPA!」(扶桑社)にて『ゴーマニズム宣言』、「小説幻冬」(幻冬舎)にて『おぼっちゃまくん』を連載開始し話題となっている。

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